高校野球を見ながら考える「投手酷使指数」

米国大リーグ(MLB)に移籍した球界の至宝田中将大投手が肘靭帯部分断裂の病名で故障者リスト入りした事は私たち野球ファンにとって実に残念なニュースでした。彼の故障に対して日本の解説者はこぞってMLBの登板間隔が中四日と短い事、スプリットボールを投げすぎた事、アメリカのボールが滑りやすい事などを理由にあげています。ところがMLBは全く異なる見解を発表しました。投手酷使指数を計算した結果、その原因は彼の「日本時代の投げ過ぎ」にあるというものでした。

投手酷使指数(pitcher abuse point, PAP)はまず先発投手が投げた球数から100を引き、その数を3乗した数を算出します。たとえば110球なら10の3乗で1000ポイント、140球も投げると40の3乗で6万4000ポイントです。これを毎試合累計して1シーズン通算10万ポイントを越えると故障の可能性が高まり、20万ポイントを越えると「いつ故障してもおかしくない状態」と判断されます。

この考え方の背景にはあくまで肩肘は消耗品、休息しても完全に回復することなどなく消しゴムの様に擦り減ってゆくものという考え方がアメリカにはあるからです。これが医学的に正しいのかどうかはわかりませんが、MLBの先発投手はほぼ100球しか投げないという契約をかわしています。この契約に背いて投球を続けさせるとその監督は「投手を酷使したがる監督」として低い評価を受け、次の就職活動に響くことになります。

「プロ野球なんでもランキング」(イーストプレス社)を見ますと去年の日本での田中将大投手のPAPはレギュラーシーズンだけで21万4666。クライマックスシリーズ、日本シリーズなどのポストシーズンが24万3683。合計45万8349。これはMLBの先発投手平均値のなんと5倍という恐るべき数値でした。日本シリーズ第6戦田中投手は160球を投げて勝利投手。PAP21万6000ポイント。たった1試合で1シーズンの危険域を越え、MLBのスカウトたちを青ざめさせたのです。

昨年秋、田中投手の移籍が決まった時すでにアメリカでは「田中を獲得したら将来的なリスクを背負う事になる」という論評が多くみられ、今回の故障は起こるべくして起こったとMLBでは受け止められているようです。日本の考え方も感覚的なもので、アメリカのPAPも科学的裏付けは希薄なのですが、投手生命を守るという意味ではこの様ななんらかの手立てが必要だと思います。アメリカのスポーツ医学は経済至上主義という社会的基盤とリンクしながら一歩先んじているのでしょう。ちなみに肘の炎症で故障者リスト入りしてしまったダルビッシュ投手の昨年のPAPは第3位の9万8298ポイント。やはり危険な状態だったのです。

高校野球の真っ只中です。今年私が甲子園での活躍を期待していた投手BIG3は軒並み予選敗退してしまいました。済美高校安楽投手、浦和学院小島投手、前橋育英高橋投手。彼らが打ちこまれたのも予選での投球過多で肘を休ませる暇がなかった事が原因と言われます。安楽投手は春の選抜で772球投げ、その後右腕の神経を痛めました。アメリカのリトルリーグでは10歳以下は一日に75球、12歳までは85球、16歳までは95球、18歳までが105球と規定されています。体感温度が軽く40度を越える甲子園での連戦は明らかに投手酷使の舞台です。夢に向かって努力している若い才能をつぶしてほしくありません。大人が守らなくてはいけません。一流投手は夢の甲子園に出ない方が将来のため、ということになると本末転倒ではないでしょうか。