起立後におこるつらい頭痛:「脳脊髄液減少症」

脳脊髄液」は脳、脊髄を包んでいるクモ膜の内側を満たしている無色透明の液です。脳脊髄液減少症という病態は脊髄麻酔が始まった1920年代から知られていました。当時は注射針が太かったこともあり、脊髄麻酔をかける時に脊髄を包んでいる硬膜やクモ膜に穴が開いて髄液が漏れ出してしまい、脳脊髄液減少症となって強い頭痛を引き起こしていたのです。一般には2000年以降になって「低髄液圧症候群」として知られるようになりました。「むち打ちなど軽度の交通外傷でも髄液が漏れることがある。頭痛が改善しないのはそのせいである。」という風潮がマスメディアを介して強調され過ぎたために社会問題化したのです。しかしその発症メカニズムにはまだまだ謎が残されています。


症状の特徴

持続的に髄液が漏れ出て髄液が減少し、頭痛、頚部痛、めまい、耳鳴り、視機能障害、倦怠感などさまざまな症状を起こす」のが特徴で、「横になっている状態から座位や立位に体位を変えると15分以内に頭痛が悪化してくること」が重要なサインとされています。当初及び腰だった日本脳神経外科学会も2007年には診断のガイドラインを発表し、専門医が的確に診断できるよう努めています。


診断の決め手

診断には病歴、症状の聴取が最も重要です。さらに検査としては一般的なMRI検査に加え「RI脳槽シンチグラフィ」が行なわれます。これは弱い放射性物質を髄液中に注入し、体内でどのように動いていくかを撮影する検査です。正常ならば髄液は髄膜の内側にとどまったままで外部には移動しません。しかしこの病気では髄液が髄膜の外側に移動しているのが確認できたり、確認できなくても短時間に膀胱内へ移動していたりする画像が得られるのです。


事故の衝撃が原因?

交通事故やスポーツ外傷、転倒などで頚部や頭部が衝撃を受けると首が一瞬大きく曲がるために髄液の入っている空間が狭くなって髄液の圧が瞬間的に高まり、その結果髄液が漏れ出るような小さな穴があくのが原因と説明されています。しかし極めて軽微な外傷で発症したり全く外傷がなくても発症することがあり、一体どのような素因のある人が危険なのか、どのような外力が加わると起こりやすいのか、そのメカニズムには謎の多い病気なのです。


ブラッドパッチ療法(硬膜外自家血注入)

髄液の漏れを止めるために有効な治療法が2012年から行なわれている「ブラッドパッチ」療法です。採取した自分の血液を、検査でわかった患部の近く、硬膜の外側に注入すると止血作用で蓋の様に固まって髄液の漏れが止まるのです。血液の注入は背中から行ない、用いる自己血の量は20~30cc。手術時間は約30分です。


治療効果は?

ブラッドパッチによる症状改善率は75%(山王病院脳神経外科報告)ですが、15歳以下の場合は90%の治癒率だということです。しかし完治率は20%とあまり高くなく再発することもありますし、また個人や年齢によって何故治癒率に大きな差があるのかもわかっていません。この様に解明できていないことの多い病気ですが、当院でもこの病気が疑われた方がブラッドパッチ療法で治癒したケースが1例あり、注意しておかなければいけない病気だと考えています。