帯状疱疹と顔面神経麻痺:(ラムゼイハント症候群)

片側の顔面が急に麻痺して顔がゆがみ目や口が閉じれなくなる顔面神経麻痺は比較的よくみられる病気ですので経験したことのある方もおられるかもしれません。

命に関わる疾患ではありませんが見た目や機能的に大変ストレスの大きい病気だといえます。この病気の原因は単純ヘルペスウイルスの再活性化によるもので一般にはベル麻痺と呼ばれます。ベル麻痺の予後は良好で、発症してすぐに治療を開始すれば数カ月の間に90%以上が治癒していきます。

しかし、帯状疱疹ウイルスが原因で起こる顔面麻痺はラムゼイハント症候群と呼ばれ重症化することが多く完治率は60%、後遺症も残りやすい疾患です。この両者に使用する抗ウイルス剤は同じ薬ですが、使う量が大きく異なります。ですからそれを初期に区別する事は大変重要になるのです。

では、この二つの顔面神経麻痺はどのようにして見分けることができるのでしょうか。

最もわかりやすいのはラムゼイハント症候群では耳介周囲に帯状疱疹による皮疹(水疱)が見られ、強い痛みを生じることです。さらに耳鳴り、難聴、めまいが合併していると診断は確実になります。また顔面神経麻痺の程度が高度であることも参考になります。けれども実際の臨床ではその鑑別は簡単ではありません。何故なら、顔面神経麻痺が先行して発症し帯状疱疹の出現がその数日後~2週間後に遅れた場合は、初診時にベル麻痺と診断してしまっていることが多いのです。防ぎようのない誤診とも言えるでしょう。

この様にラムゼイハント症候群には初期に帯状疱疹、難聴、めまいのない無疱疹帯状疱疹が含まれているため、ベル麻痺と混在しているものが20%程度あると言われています。ですから私たちはその誤診を少しでも防ぐため、麻痺の程度、小さな帯状疱疹の有無、耳介部痛、後頭部痛、耳鳴(聴力障害)などを確認し、ラムゼイハントを見逃さないように努めています。

治療にはどちらに対しても抗ヘルペスウイルス剤や神経の浮腫を抑えるステロイド剤を使用します。

症状に応じてその使用量は適宜変えていきます。顔面神経麻痺は角膜炎や結膜炎を誘発することもありますので眼球のケアも大切なポイントです。帯状疱疹ウイルスが原因で起こるラムゼイハント症候群は眼科領域、耳鼻科領域、神経領域と幅広く後遺症を残しやすい疾患ですので、我々脳神経外科医にとっても初期診断初期治療に大変気を使う病気の一つです。

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単純疱疹ウイルスと顔面神経麻痺

顔の半分に力が入らず、顔がゆがんでしまう病気があります。「顔面神経痛でしょうか」というご質問を受けることがよくあります。けれどもこの世に「顔面神経痛」という病気は存在しないのです顔面神経は顔の表情を作る筋肉を動かす運動神経です。感覚神経ではないので顔面神経が傷害されても顔に痛みを起こすことはありません。この病気は顔面筋の麻痺を起こす「顔面神経麻痺」という病気です。

顔面神経麻痺は通常、左右どちらかの顔面の違和感で発症します。口元に力が入らず水かこぼれる、まぶたに力が入らず、洗顔時に指を目に突っ込んでしまったり、石鹸が目に入る、額のしわがなくなる、などの症状がおこり、見た目にも顔がゆがんでしまいます。舌の前3分の2は顔面神経が支配していますので味が分かりにくくなることもあります。また音を伝える耳の中の小さな筋肉も動かしていますので音が割れて聴きとりにくくなることもあります。ヘルペスウイルスの増殖により後頭部の痛みを訴える場合もあります。

これらの症状は「単純疱疹(単純ヘルペス)ウイルス」が顔面神経に感染したためと考えられており、ベル麻痺と呼ばれています。単純疱疹ウイルスは元来感染力の弱いウイルスですが、過労状態、精神的ストレス、風邪など体力が落ちている時に発症します。(帯状疱疹ウイルスによる重症型の顔面神経麻痺、ラムゼイハント症候群については別記コラムをご覧ください)。この顔面神経麻痺は数日間やや悪化しますがその後1,2ケ月で徐々に回復してくるものが多く、統計的には3ヶ月で80%以上の症例が治癒すると言われています。発症時の症状が強いケースではさらに数ヶ月を要するものもありますが、一般的にはあとかたなく治癒するのが普通です。高齢者では後遺症が残りやすい傾向があります。

症状を長引かせず後遺症を残さないために、早めに薬物療法を開始する事が大切です。①抗ウイルス剤(5日間) ②神経の腫れを抑えるためのステロイド剤 ③ビタミン剤(末梢神経を回復させる)④目薬(まばたきがしにくくなり目が乾燥して角膜炎になるのを予防)、などの薬を使用します。また脳から顔の筋肉への刺激が途絶えているわけですから、逆に筋肉を直接刺激してあげることも重要です。自分で目や口の周囲をマッサージする、電気治療器を使って刺激を行うなどの治療も効果的です。

この病気は見た目にも目立ちますしも生活上の不都合を生じる病気です。けれども悪い病気ではありませんし再発もまずないと考えていいでしょう。効果的な薬剤の開発により治癒率の高い病気ですのでしばらくの間辛抱強く治療を続けてください。

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