子供のスポーツと脳震盪(のうしんとう)

ソチ冬季オリンピックが閉幕しました。人間はどこまで勇敢なスポーツに挑戦する生き物なのでしょうか。驚嘆するほどの大技を成功させるために、一流選手たちは気が遠くなるくらいの数の失敗と怪我を繰り返し、それを乗り越えてきたに違いありません。頭が下がります。先月米ワシントン大学は「中学女子サッカー選手では高校や大学の選手に比べ脳震盪が非常に多い」という研究結果を発表しました(JAMA pediatr.)。主な原因は他の選手との接触とヘディングで、この結果を受けて協会では中学生にはヘディングを試合で用いないよう指導する動きが出ています。若い選手は脳が未成熟で首の筋肉が弱くヘディング技術が未熟なため、大人より衝撃が大きいのです。

脳震盪(のうしんとう)とは

脳震盪はその字のとおり脳が急激に揺れ動かされて起こる症状です。ボクシングのノックアウトがその典型ですがサッカーやラグビー、柔道などのコンタクトスポーツでもよく起こります。一時的に意識が無くなる、記憶が無くなる、めまい感、バランス感覚がおかしくなる、頭痛、吐気、視界がぼやけるなどの症状が現れます。ラグビーでは倒れた選手が「魔法の水」というやかんの水をかけてもらい意識を取り戻してプレーを続けるシーンを目にしますが、試合後聞いてみると試合内容を全く覚えていないということがよくあります。試合後に病院で検査を受けた事や帰宅後の出来事を翌朝覚えていないというケースも時折みられます。

脳震盪のレベルは3段階に分けられます。

脳震盪レベル1:軽度
一過性に意識が混濁するが失神はない 記憶正常
脳震盪レベル2:中等度
2分以内の失神 記憶障害 手足のしびれ 持続する頭痛吐気
脳震盪レベル3:高度
2分以上の失神 上記の症状

中等度以上の脳震盪

中等度以上の脳震盪では脳内に異常が発生している可能性がありますので必ず検査を行う必要があります。最も危険な合併症は、脳表と硬膜を繋いでいる架橋静脈が破綻しておこる急性硬膜下血腫です。脳を包んでいる硬膜は頭蓋骨に固定されていますので、激しい打撲や回転が起こると脳脊髄液に浮かんでいる脳と硬膜の間にずれができて血管が破綻して出血し、その血腫が急速に脳を圧迫するのです。これは非常に重篤な出血です。開頭緊急手術を行っても約半数しか救命できず、また高い確率で後遺症を残します。

軽い脳震盪

軽い脳震盪では脳に対する影響はありませんので数日の安静で回復します。打撲直後は安静にして軽く頭部を冷やして経過を見ます。脳震盪を起こした当日は競技に復帰すべきではありません。検査上の異常がなくても頭痛や吐き気が取れない場合は完全に回復するまで最低1週間の安静が必要です。一度脳震盪を起こすと次の打撲で脳震盪を起こすリスクは増加し、より重篤になりやすいというセカンドインパクト症候群が知られています。そのためアメリカ神経学会ではラグビーで明らかな脳震盪を起こした選手には3週間は試合に出させないよう忠告しています。

全国柔道連盟では脳震盪を起こした選手は翌日軽い有酸素運動から始め、接触プレーのない運動を経て徐々に通常の運動に復帰させる1週間のメニューを作成しています(全日本柔道連盟:柔道の安全指導 第3版)。勝利至上主義のスポーツ界ですが、子供たちを危険なスポーツ頭部外傷から守る冷静な目を大人は持っておきたいものです。

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子どもが頭痛を訴えるとき

頭痛の子供が増えています。風邪や発熱に伴う頭痛で保健室を訪れる児童は昭和の昔から多かったものですが、最近はそうではない頭痛が増えているのです。この頭痛に関する知識がないと、表現能力に乏しい子供たちの頭痛を軽く考え過ぎてしまうことにもなりかねません。風邪や蓄膿症などの感染症に伴わない小児の頭痛には主に二つのタイプがあります。

ひとつは「小児の片頭痛」、もうひとつは「慢性連日性頭痛」といわれるタイプの頭痛です。保健室の先生や頭痛の子供を持った親御さんはこの特徴を知っておくといいと思います。

小児の片頭痛

片頭痛は片頭痛発作とも言われるように、「頭痛のある時は寝込むほどに痛いけれども、そうでない時は普通に生活できる」という特徴を持っています。だらだらと毎日痛むものではありません。頻度は数か月に一度から月に数度までさまざまで、痛む場所は小児の場合は前頭側頭部に多い傾向があります。大人の片頭痛では一旦頭痛が始まると半日以上続くことが多いのですが、小児片頭痛は持続時間が短いという特徴があり、年少児では強い頭痛が1時間以上続けば片頭痛を疑います。

片頭痛はズッキンズッキンと痛む、日常の動作で痛みが悪化する、光や音に敏感になり不快に感じる、吐気、嘔吐を伴うという特徴を持っていますので、これらの特徴が二つ以上あり、暗く静かな部屋で数時間休むことで軽快する傾向があれば片頭痛の可能性が高いと言えます。また遺伝性の高い疾患ですので母親に同様な頭痛がないかを尋ねておくことも大切です。

片頭痛は生活支障度の高い頭痛です。会社を休んだり授業を受けられなかったりするほどの強い痛みで苦しむことも稀ではありません。熱がないからといって風邪の子供より軽く考えてしまうのは問題です。保健室では「1時間ルール」というのがあると聞きますが、片頭痛の場合は数時間、光を遮断し軽く頭部を冷やして安静を取らせてあげて欲しいと思います。片頭痛が疑われたケースでは適切な薬物治療も必要ですので頭痛専門医を受診させるよう御家族に勧めてください。


慢性連日性頭痛(chronic daily headach:CDH)

CDHは私たち医師や保健室の先生たちを一番悩ませる頭痛です。CDHの定義は、1日4時間以上の頭痛が、月15日以上、3か月以上続くというもので、これは不登校の原因の一つになっています。筑波学園病院小児科思春期頭痛外来(藤田光江先生)の統計ではCDHは女児が男児の2~3倍多く、12歳~14歳の中学生に多く見られることが分かっています。

慢性化の要因には患児生来の性格、勉強についていけない、クラスや部活での人間関係、父母の不仲や過保護など多くのファクターがあると考えられます。環境にうまく適応できる子ばかりではありませんので人間関係を器用に構築できない子供たちはそのストレスから頭痛を訴え始め、CDHとなって不登校を招くことになるのです。

前述しましたように片頭痛の場合は頭痛発作以外の時は元気に活発に学園生活を送ることができます。けれどもCDHの場合は登校こそしてくるものの何となく覇気や元気がなく、次第に頻繁に保健室を利用するようになります。このような場合は心理社会的要因が潜んでいると考えられますので、まず頭痛をありのまま受容してあげることが大切です。しばらくは静かにその痛みの訴えを受容してあげながら、徐々にどのような心因性の問題を抱えているのかを聞き出すことが必要になります。


大人の役割

医療機関はこのような子供たちに何か特別な病気が潜んでいないかを調べる役割と、カウンセリングなどを通して頭痛を解決する役割を担っています。頭痛が続くと御家族は脳内に脳腫瘍などのなんらかの異常があるのではないかと心配になりますので、画像診断を一度は受けておく方がいいと思います。

また、CDHと子供たちの心理社会的背景の関係について私たちはいつも心を傾注していかなければいけません。CDHの中で心理社会的問題を抱えているケースは60-70%あると考えられており、その約半数が不登校に直結しているからです。もともと思春期は適応障害や不安障害など精神性疾患の多発する時期ですので、養護教諭の観察が医療機関受診のきっかけになることも多いのです。先生や御家族は子供の心の葛藤が「頭痛」という身体症状で表出されている可能性を常に考えて接していただきたいと思います。


(参考資料:日本頭痛協会 知っておきたい学童生徒の頭痛の知識 / 日本頭痛学会 慢性頭痛の診療ガイドライン)