もうひとつのクモ膜下出血「解離性脳動脈瘤」

クモ膜下出血の発症率は最近やや減少していますが、それでも急性に起こる脳の病気の中で最も命に関わる怖い病気であることに変わりはありません。患者さんにとっても脳外科医にとっても「クモ膜下出血」という診断名は常に緊張感と共に語られる言葉です。クモ膜下出血の原因の大半は脳動脈瘤破裂です。動脈の分岐部などの壁の薄い部分に動脈瘤という直径数ミリの袋ができ、それが破裂して重篤な症状をきたす病気です。この様な形の動脈瘤を「囊状動脈瘤」といいますが、それとは違う起こり方をする動脈瘤もあります。

解離性脳動脈瘤とは

中年の男性に多い病気で、脳動脈の壁の一番内側の膜が裂けて、中膜との間に血液が流れ込んで動脈瘤を作る疾患です。心臓近くの大動脈に起こる解離性動脈瘤に似た現象が脳の血管にもおこるのです。脳血管の場合、高齢者に多いわけではありませんので動脈硬化が主因とは考えにくく、原因はよくわかっていません。椎骨動脈という頸椎のトンネルを通って脳内に入る血管に好発しますので、首の動きなど軽微な外傷が誘因ともいわれますが、いくら激しい運動をしてもほとんどの人には起こらないのですから、先天性に血管壁の脆弱性を持っている人に起こりやすいとも考えられます。

症状は?

血管の内膜が突然裂けて動脈瘤が形成されるのですから、急激な頭痛で発症し、それが持続することが特徴です。椎骨動脈瘤の場合は首の後ろから後頭部の痛みが主ですが、軽症例ではあまり強い痛みはなく仕事をこなせる程度の場合もあります。そのような軽症のケースでは病院でも診断がつかず、そのまま自然修復されることも多いと考えられています。強い頭痛が長引く場合は専門の施設で精査を受けて初めて診断されることになります。

動脈壁が裂けて動脈瘤が形成されただけなら頭痛だけですみますが、それが破れると「クモ膜下出血」になります。動脈瘤が大きくなってふくれてくると外膜も破綻して外側に破れついにはクモ膜下出血をきたすのです。その場合は頭痛が突発的で非常に激しいという特徴があり、CT検査、MRI検査で確実に診断が可能です。

また動脈瘤が破れるのではなく血管内腔を閉塞してしまうと「脳梗塞」になります。この場合は脳虚血症状、つまり血液が流れないことによる手足の麻痺や歩行障害、言語障害などが起こってきます。この様にクモ膜下出血や脳梗塞を起こした重症例ではただちに専門の病院に搬送して精査を受けて頂くことになります。

治療方法は?

クモ膜下出血を起こさなかった症例では保存的治療が原則で、入院安静により自然修復されていくのを待つことになります。

クモ膜下出血で発症した例では手術治療が必要です。再出血の可能性が高いからです。手術には血管内手術と開頭手術があります。方法はケースバイケースですが、血管内手術ではコイルを使って動脈瘤を塞栓してしまう方法、開頭手術では動脈瘤のできた血管の流れを遮断して動脈瘤に血流が流れ込まないようにする方法などが一般的です。

高血圧と脳卒中

脳卒中とは突然脳の血管に異常が生じて命を奪ったり、失語症や半身不随などさまざまな後遺症を残す病気の総称です。

脳卒中の最大の危険因子は高血圧ですので「高血圧性脳血管障害」とも呼ばれます。現在脳卒中の年間発症患者数は年間29万人。脳卒中が原因で要介護者となった人の割合は要介護者全体の30%を越えて第1位で、後遺症を抱えて不自由な人生を送っている人は非常に多いのです。

高血圧はどのように脳卒中に関与し、どの程度まで血圧を下げると脳卒中が防げるのでしょうか。

高血圧が関わる主な脳血管障害

脳出血

別名「高血圧性脳出血」とも言われ、高血圧と非常に強い関連性があります。高血圧を有している人の脳出血発症率は正常者の9~10倍。特に40歳から59歳までの年齢層で拡張期血圧(下の血圧)が高いグループの危険率が高い事がわかっています。

脳梗塞

脳梗塞は3種類に分類されます。

  1. ラクナ梗塞:脳実質を穿通する細い血管に生じた梗塞で15mm以下の小さな梗塞です。ラクナとは空洞の事で、長年の高血圧が脳深部の血管にリポヒアリノーシスという病的な変化を来たしてこの病気に至ると考えられています。
  2. アテローム血栓性脳梗塞:脳内の比較的大きな血管が動脈硬化で細くなって脳梗塞を来たしたり、血管の壁にできた血栓の一部が血流よって脳内の遠くの血管に飛んで脳梗塞を作ったりするもので、ラクナ梗塞よりも重症の脳梗塞です。原因はやはり高血圧、そして喫煙、糖尿病、高脂血症などが関与しています。
  3. 心原性脳梗塞:不整脈(心房細動)が原因で起こる最も重症の脳梗塞です。心房細動によって心臓内に作られた血栓が脳に飛んで脳梗塞を来たします。この塞栓を引き起こす原因として高血圧、糖尿病、加齢、冠動脈疾患などが上げられます。

クモ膜下出血

85%から90%が脳動脈瘤の破裂で起こる病気です。高血圧の治療によって脳出血が減少しているにも関わらず、クモ膜下出血はあまり減少していません。年間発症率は人口10万人当たり10人から20人で、発症一カ月以内の死亡率は30%~60%と非常に高い疾患です。脳動脈瘤はほとんどが先天的なものですので、他の病気と異なり高血圧が直接的に関与しているわけではありませんが、高血圧により小さな動脈瘤が破裂しやすい大きな動脈瘤に変化することが知られています。破裂の危険因子としても高血圧、喫煙、飲酒などの関わりが証明されています。


どこまで下げれば脳卒中を予防できる?

多くの研究の結果、脳卒中を防ぐためにどの程度まで血圧を下げればいいのかが分かってきました。

脳梗塞は全年齢層で収縮時血圧(上の血圧)が140mmHgを越えると急激に増える。脳出血も同様に140mmHgを越えると急激に増加する。拡張期血圧(上の血圧)が90mmHg越えると脳卒中は急激に増える。この結果をふまえて日本高血圧学会が次の様な基準を作っています。

血圧のコントロールは高齢者では140/90mmHg以下にするのが望ましい。
若年者、中年者では脳出血の可能性も高いので130/85mmHg以下が望ましい。
糖尿病や腎臓病を持っている人はさらに危険なので130/80mmHgにするべきである。

この基準をもとに現在の日本では血圧コントロールが行われています。けれども医療はケースバイケースですので画一的にはいきません。主治医と十分相談しながらオーダーメイドの降圧治療を行っていくことが大切です。

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