原因は脳の炎症「慢性疲労症候群」

原因は脳の炎症「慢性疲労症候群」

いったいどんな病気なのか、さっぱり正体がわからなかった病気「慢性疲労症候群」も徐々に解明が進んできました。慢性疲労症候群(CFS)はこれまで健康に生活していた人が急に原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、その後強い疲労感と共に、微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感、思考力の障害、抑うつ状態などの精神症状が半年以上続き、健全な社会生活が送れなくなる病気です。CFS患者の四分の一は長期にわたりほとんど回復が見られず、日中も臥床して生活し、生活保護受給者になるケースも多いとされています。この病気は健常者に見られる慢性疲労(疲れが溜まっているが、通常の日常生活や社会生活は可能な状態)とは全く違う病態です。病名に「疲労」という誰もが日常で経験している症状がついていて誤解や偏見を受ける可能性があるので、現在は「筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群」という病名で呼ぶことになっています。


おもな症状

1.微熱・頭痛・のどの痛み

解熱鎮痛剤に反応しない微熱が長く続きます。風邪をひいたときの様な頭痛やのどの痛みが続きます。

2.強い疲労感

日常生活ができないほどの強い疲労感が出現します。仕事や育児など原因がはっきりしていて通常の生活が営めている場合は「慢性疲労」ですのでこの病気とは全く違います。

3.激しい筋肉痛

全身や一部の筋肉に激しい運動をしたあとのような筋肉痛が現われ、動くこともできなくなります。

4.不眠

寝つきの悪さや中途覚醒、昼間の眠気など睡眠が障害されます。自律神経障害と言われています。

5.種々の精神症状

うつ状態が持続します。気分の落ち込み、意欲低下により仕事ができなくなり退職を余儀なくされる事もあります。注意力や集中力、記銘力障害なども出現し、若年性認知症との区別が難しいこともあります。


筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群の原因

何らかの感染症や環境的なストレス(過重労働、精神的ストレス、紫外線、化学物質などなど)をきっかけに神経系、内分泌系、免疫系の働きに異常をきたすと、免疫力が低下して体内に潜伏していたウイルスが再活性化されます。このウイルスを抑え込むために体内ではサイトカインと呼ばれる免疫物質が産生されるのですが、これが脳に炎症を起こして脳機能障害を引き起こします。特殊なPET検査によって、視床、中脳、扁桃体に炎症が強いケースでは認知機能障害が強く、帯状回、視床では痛み、海馬では抑うつ症状が強く出るという相関関係が判明しています。つまりこの病気は強いストレスに曝されて免疫力が低下し、脳のあちらこちらに炎症が引き起こされて多彩な臨床症状をきたす、実に複雑で治療困難な脳の病気だという事がわかってきたのです。米国でも今後5年以内に科学的根拠に基づく新たな診断基準を作成する計画になっています。

アリ地獄のギャンブル障害

アリ地獄のギャンブル障害

「報酬」とは何でしょうか。仕事を頑張った時に貰える御褒美。まず思いつくのがそんなイメージではないでしょうか。しかし辞書を引くと「労力に対して与えられる金品」としか書かれていないので、労力の中身とは無関係のようです。脳の中には報酬系という神経回路が備わっています。この報酬系に関わっている神経伝達物質がドーパミンです。ドーパミンは生存に適した条件が満たされた時に放出され、気持ち良さや幸福感をもたらします。それによって動物は生命を維持するための最適な行動をとるように促されます。快感は報酬なのです。

動物が生存するために不可欠な回路なのですが良い事ばかりではありません。報酬系は下等動物にもありますが、人間は彼らと違い気持ち良さを記憶しています。そのため一旦快感を知ってしまうと人は報酬系がさらに強く刺激される体験を求めるようになります。これがギャンブル依存の始まりです。ギャンブルはリスクを伴うもの。誰にもわかっているのですが、リスクを伴うと人間の報酬系は一層強く刺激されるらしいのです。報酬系を刺激する術を知ってしまうとやがて誘惑に抵抗できなくなり、快感を得るためその行動に埋没してゆきます。そこからは快感と渇望のアリ地獄です。

2016年にカジノ法案が衆議院を通り政府は2020年東京オリンピックまでには公営カジノを開始する勢いです。同じ賭博なのに公的に経営すれば合法でそれ以外は違法になるのが何故なのか門外漢の私にはわかりませんが、どちらにしても人間に対する影響は同じです。現在、精神科学の分野ではギャンブル依存症ではなくギャンブル障害という言葉が使われていて、「嗜癖」という病気の一つに分類されています。嗜癖とは危険ドラッグ依存、覚醒剤依存と並ぶ非常に重症な依存症の事です。

嗜癖の恐い点は禁断症状と耐性です。ギャンブル障害の禁断症状は覚醒剤並みに重症で長く続き、ギャンブルをしたくてたまらない衝動、いらいら感、焦燥感、身体症状に長年苦しみます。どんどん強い刺激を求めてゆくのが耐性で10万、20万程度の額では興奮しなくなります。その結果大穴を狙って負け続け、家族や友人に嘘を重ねてあっという間に数百万の借金を背負い、その後は多重債務、自己破産とお決まりのコースをたどります。しかも、不定期に開催される競馬や競艇ではなく、ギャンブル依存の90パーセント以上がパチンコ、スロットであることを考えるとカジノが生む新たな闇を予測しないわけにはいきません。

このような危険性をはらんでいるにも関わらず、何の法的整備も医学的サポート体制もできていないこの国で、何故この法案を急がなければいけないのか。財源確保、観光立国という大義名分だけで突き進んで大丈夫なのか。実に心配な話です。

猛威をふるうインフルエンザの感染経路

猛威をふるうインフルエンザの感染経路

何となく当たり前だと思っている事でも、学問的に裏付けられるとなるほどと納得してしまうことがあります。インフルエンザが何故蔓延するのか。という命題です。

飛沫感染

インフルエンザの感染経路の第一は飛沫感染。インフルエンザ患者の咳やくしゃみで飛び散ったウイルスを含むしぶきを吸いこんで感染する経路です。咳1回で10万個のウイルスが2メートル、くしゃみ1回で4,5メートル飛散するといわれています。咳やくしゃみをする時は他の人から顔をそむけ、2メートル以上離れるように気をつけます。咳やくしゃみをした時に顔を押さえた手をすぐに洗う事、周囲の物に触れない事など周囲環境の汚染を減らす工夫が大切です。

接触感染

ウイルスが付着した物を触れることで感染します。感染者が触れた手すり、ドアノブ、椅子、タオル、コップなどに触れてしまい、無意識にその手を自分の口や鼻に持って行く行為で感染します。公共物や感染の可能性がある家族の物を触れた時、手洗いはもちろんですがまずはその手を顔の周辺に持っていかないように気をつけます。

空気感染

同じ空間、同じ部屋にいるだけで感染する空気感染。この空気感染が予想外に起こりやすい事が確かめられたという新しい研究報告です。米国メリーランド大学ではインフルエンザ患者142人の呼気を ①いつも通り呼吸している時 ②話している時 ③咳をした時 ④くしゃみをした時に分けて採取し、その中のウイルス量を分析しています。この研究によると①のいつも通り呼吸をしている時の呼気の48%からインフルエンザウイルスが検出され、その中の7割以上に感染能力のあるウイルスが確認されました。しかもこの結果はくしゃみをした時の呼気と差がなかったというのです。

感染の蔓延を防ぐために

インフルエンザウイルスは咳やくしゃみをしなくても「ただ呼吸をしているだけで」周囲の空気中に飛散し浮遊している。改めてその感染経路の重要性が確かめられた研究結果です。インフルエンザに罹患した人が職場や学校に現われた場合は、くしゃみや咳をしていなくてもすぐに帰宅させるべきです。咳をしている人に近づかない、手洗いを励行するという方法だけでは感染から身を守ることはできないのです。

参考文献 Proc Natl Acad Sci U.S.A 2018 Jan 30:115

「前頭側頭型認知症」という病気

「前頭側頭型認知症」という病気

昨年、大阪で品物を盗んで捕まった男性が無罪判決を受けました。その行動はあくまで認知症によるものなので本人の責任は問えないと裁判所が判断したからです。この男性は過去にも三度万引きで捕まっていたのですが、警察も家族もその病気に気づいていませんでした。この男性は大阪市内の売店で500円相当の品物を万引きして自転車で帰るところを店員に取り押さえられたのですが、裁判で記憶力の低下や長女の年齢を大きく間違えるなど不自然な回答をすることが多かったため認知症が疑われ、精密検査でこの病気がわかったのです。

大阪地裁が認定した病気の名前は「前頭側頭型認知症」。日本国内で最も多い認知症はアルツハイマー型認知症で、その他にレビー小体型認知症、脳血管性認知症などがありますが、この病気は認知症全体の5%以下で日本に約12000人の罹患者がいると推定されています。専門的な説明としては「主として初老期に発症し、大脳の前頭葉や側頭葉を中心に神経変性を来たすため、人格変化や行動障害、失語症、認知機能障害、運動障害などが緩徐に進行する神経変性疾患である」ということになるのですが、この珍しい認知症の特徴をかみ砕いて見て行きましょう。


前頭側頭型認知症の特徴

特徴1 行動の脱抑制

万引きなど社会的に不適切な行動を繰り返します。その万引きに計画性はないのです。目の前にあるから衝動的に取ってしまうだけです。ですから高価な宝石や時計を盗んだりはしません。漬物とかはさみとかどうでもいいようなものです。捕まって詰問されても悪気はないのであっからかんとしています。礼儀やマナーが欠如し自分勝手な行動を取るようになります。葬儀の場で食事を食べ始めたり、通夜で先に寝てしまったり帰ってしまったりします。周囲に失礼な事をしても気にしていないので「わが道を行く行動:going my way behavior」ともいわれます。交通違反や痴漢なども繰り返します。普通の痴漢(?)と違ってタイプを選んで痴漢するわけではありません。たまたま目の前にいる人に対して抑制が効かず衝動的に不適切な行動を起こすのです。病院では待合室で待つことに我慢できず、診察室にどかどかと文句を言いに入り込んでくることもあります。福岡大学精神科の尾籠准教授は「このような行動をとる人ではまずこの病気を疑うべき」と述べています。

特徴2 思いやりや共感の欠如

困っている人を見ても無頓着で共感できなくなります。妻がインフルエンザで高熱を発して寝込んでいても平気で食事を作るように命じたりします。(もともとはそういう人ではないので家族は非常に困惑します)人とのふれあい方が非常に冷たくなり、親が危篤でも関心を示さず見に行かないという冷淡な行動をとるようになります。

特徴3 常同行動(同じことをくり返す行動)

一日のスケジュールを時刻表のように厳密に決めて同じことを繰り返します。7時15分に散歩に出発して30分に公園に着いてどのコースを辿って何時に帰宅するかというようなタイムスケジュールを決め、それを毎日繰り返します。同じ食事のメニューをくり返して要求することもあります。毎日同じ物を買ってきて引き出し一杯に買いだめをしたりします。同じ調子で手を叩いたり同じ鼻歌を唄うといった行動を繰り返します。

特徴4 食習慣の変化

甘いものをたくさん食べるようになります。お酒やたばこの量も増えます。しかしこれも食べたいから食べるというより、目の前にあるから食べるのです。目の前になければわざわざ買ってきて食べたりはしません。好きなものでなくても目の前にあるものを全部食べたり飲んだりします。また、確認せず何でも口に入れる傾向も見られます。

特徴5 無気力無関心

認知症は気力がなくなりうつっぽくなる傾向が強いのですが、前頭側頭型認知症は特にその傾向が強いと言われています。日常生活でも周囲に興味がなくなり、意欲的に日々を過ごすということがなくなります

特徴6 保たれる記憶力と視空間認知機能

特徴的な種々の異常が見られるわりにはこの病気の方は記憶障害が軽いのが特徴です。
そのため診察室の椅子に足を組んで座り横柄な態度で医師に接する態度は、単に失礼な患者さんの様に見えますが、上記の特徴を御家族から聴取する事で診断が可能になります。また外出してもアルツハイマー型認知症にように道に迷うことはなく必ず帰宅できるので「徘徊」とは呼ばず、「周回」と呼ばれます。


前頭側頭型認知症の治療

1.非薬物療法

家族は他人に迷惑をかける状態になってしまった患者さんに、当然ながらいい印象は持っていません。なかなか受け入れてはもらえませんので、家族に病気のことを知ってもらう事がまず大切です。「物事を正しく判断したり抑制する前頭葉が働かなくなっているので、刺激に対して直接反応してしまうロボットの様になっているんですよ」と説明して理解を深めてもらう。その上で対応をしてもらうように努めます。

認知症の割には記憶力や視空間機能は維持されているので、カラオケ、ダンス、運動、楽器演奏などを日課に組み入れます。もともと常同運動や固執傾向があるので没頭して取り組んでくれます。また興奮している時に、隣で本人の好きな歌を唄うとそちらに関心がすぐ移り、つられて唄い出し興奮が和らぐといわれています。

2.薬物療法

残念ながらこの病気に対して効果が確認されている薬物はありません。興奮状態や暴力などの場合は抗精神病薬などを用いで興奮を鎮めるような対症療法を行うことになります。

【参考文献】「Dementia Japan :29 (2) 2015」「Schneller : no.105,2018」「臨床と研究 91,7」

「外傷性髄液漏」とは

「外傷性髄液漏」とは

髄液漏」とは、交通事故のような非常に激しい頭部打撲により頭蓋底の骨折をきたし、脳を包んでいる硬膜が破れ、髄液が体外に流出してしまう重篤な状態です。最も多いのは鼻から漏れる「髄液鼻漏」で、透明なさらさらとした液がぽたぽたと鼻から漏れてきます。髄液漏が少しでも疑われた場合、ただちに緊急入院となることは言うまでもありません。

髄液漏は入院を要するような重篤な頭部外傷の1%から2%に見られ、原因となる骨折は前頭蓋底骨折。つまり前頭葉を包んでいる頭蓋骨の底の部分が骨折して起こることが多く、いかに重症の外傷かがわかります。前頭蓋底には匂いの神経、嗅神経が走っていますのでこの骨折により嗅覚が消失してしまうこともあります。

鼻から出てくる液が髄液かどうかはどのようにして判別するのでしょうか。髄液には糖が含まれていますので漏出液の糖分チェックをする事が外来でできる最も簡易的な方法です。ただし涙にも少量ながら糖分が含まれているため、最近では免疫学的な詳細な検査も可能になっています。また起きあがったり、うつむいたり、腹圧を加えたりする操作で流出量が増加するようならば髄液漏の可能性が高まります。

さらさらとした透明な水様性鼻汁で鑑別すべきはアレルギー性鼻炎です。しかしアレルギー性鼻炎では体位に関係なく流出しますし、季節的な変化があり、また鼻汁と同時に結膜充血など他の症状も出ることが区別のポイントになります。

ビール瓶をさかさまにして液体が流れ落ちると、逆にポコポコと空気が入ってきます。そのような原理で、髄液漏を起こすとCT検査で脳内に空気が侵入している状態が観察されます。脳内は無菌ですので髄液漏がおこるとその漏孔から細菌が入り髄膜炎を来たす可能性が高く、危険な状態といえます。髄液は1日に500ccも産出されますので、小さな漏孔でも閉じるのには時間がかかります。そのため髄液漏が疑われた時はベッド上で数週間の安静が必要です。自然治癒しない場合は外科的に孔をふさぐ手術を行います。

「髄液漏疑い」。

診断書に記載するには少し覚悟が必要な診断名です。

抗認知症薬の副作用と使い分け

抗認知症薬の副作用と使い分け

アルツハイマー型認知症を治す薬はありませんので、今使われている薬はその進行を遅らせるために使用されているものです。その「進行」とは何でしょうか。物忘れがひどくなることでしょうか。それも確かにあるでしょう。でも実際には、物忘れがひどくなって困っているご家族はそれほど多くはありません。困っているのは、いわゆる周辺症状といわれる諸症状です。有名な周辺症状は、物盗られ妄想、被害妄想、嫉妬妄想のような妄想症状、暴言、易怒性のような興奮しやすさ、昼間ずっと寝ていて起きて来ないという昼夜逆転や意欲喪失などなどです。これらの周辺症状をBPSDと呼びますがこれらの症状の悪化が患者さんを苦しめ、ご家族の介護を困難にしているのです。

ですから、抗認知症薬を使って物忘れの進行が抑えられたとしても副作用などでBPSDが進行してしまえばその治療はうまくいっていないことになります。すぐに軌道修正する必要があります。家族、スタッフの対応や医師の処方などどこかに問題があるのです。私の外来では認知症と診断しても抗認知症薬を必ず使うのではなく、患者さんやご家族にとって今何が一番問題となっているかを考えて処方を決めています。副作用が出た場合は直ちに中止し、次の手段を考えることになります。

ここでは代表的な三種類の抗認知症薬の特徴を紹介します。

1.アリセプト(ドネペジル)

一番早く開発された抗認知症薬で、神経伝達物質のアセチルコリンを賦活化させる薬剤です。これと類似した機序の薬にはレミニール(ガランタミン)、リバスタッチ、イクセロンパッチ(リバスチグミン)などがあります。認知機能の改善、日常生活動作の改善、行動障害の改善などがあるとされています。けれども認知症は進行性の病気ですので、一時的に効果があっても症状はゆっくりと進んでいきます。ドネペジルは感情や行動や言動を活発化させる薬剤なので、アルツハイマー型認知症の患者さんの中でもおとなしいタイプ、無関心になったり意欲が落ちているタイプに有効です。服用後元気になった、明るくなったという効果を実感できることもよくあります。逆に活発すぎるタイプに使うと攻撃性や興奮性、易怒性が出現して介護が困難になることがあります。

また一般的な副作用として吐気、胃部不快感、食欲不振などの消化器症状が出ることもあります。この副作用は栄養状態の維持にかかわる大問題ですので、このような症状が出たら無理に続けずに他の薬への変更を考えます。

2.メマリー(メマンチン)

メマンチンはドネペジルとは異なる作用の薬で、易怒性や易興奮性、暴言、介護への抵抗などが見られるケースに適応となる薬です。メマリーを使用すると行動や感情が安定してくることが多く、強い鎮静剤などを使わずに済むこともよくあります。活発すぎるBPSDの改善効果も期待できるので、軽い鎮静作用のある抗認知症薬という位置付けで使用しています。この薬は量を増やしていくとどうしてもふらつきやめまい感が出てきます。その場合は服用時間を変えて夕食後にする、少量で様子をみて徐々に増やすなどの工夫が必要です。めまいやふらつきは転倒、外傷という大きな問題を引き起こしますので注意して経過を見なければいけないお薬です。

3.レミニール(ガランタミン)

脳内アセチルコリンを活性化する薬ですが、ドーパミン、セロトニン、GABAなどそれ以外の神経伝達物資にも影響を与えるため、認知症の周辺症状にも効果が期待できる薬です。易興奮性などの副作用はドネペジルよりも出にくい印象があります。抑うつ症状、意欲低下などの陰性のBPSDを改善させるだけでなく、易興奮性、易刺激性を抑える効果もみられます。海外では脳血管性認知症の適応もとれていますので合併しているケースでは良い適応になります。胃の不快感、吐気などの消化器系副作用はやはりみられることがありますので、その際は他剤への変更を考慮します。この薬は一日2回の服用が必要ですので、家族の見守りなど服用の環境が整っていることが肝要になります。

もの忘れ外来・医師の対処法「虎の巻」

もの忘れ外来・医師の対処法「虎の巻」

認知症をたくさん診ているクリニックでは医師たちがいろいろな工夫を凝らして診療を行なっています。「頭はボケても心はボケてない」。そのことを医療者や一緒に暮らすご家族は実感していると思います。もの忘れ外来で医師が行なっている工夫はご家族にも役立つことが多くあると思いますのでいくつかご紹介します。


1. 病院にかかりたがらない時は?

これはむしろご家族にとって切実な問題ですね。認知機能の低下により病識がなくなり、物忘れをあまり気にかけないのがアルツハイマー型認知症の特徴です。物忘れをひどく心配している人は病気ではないことが多いのです。心はボケていない、すなわちプライドは保たれていますので、「最近物忘れがひどいから病院に行きましょう」という言葉ではただ反発されるだけで承諾を得ることはできません。

最近は脳の定期健診は普通のことですので、ご家族が自分たちの検診に一緒についてきて欲しいと誘う方法が一番有効です。脳梗塞や脳腫瘍や色々な病気を早期発見する事が何よりも大切だから一緒に検査を受けましょうと説明してください。診察室で騙されたと不信感を覚えないように、受付で「本人は認知症の検査とは思って来ていません」というメモをこっそり渡してくださると私たちは気づかれないようにうまく認知機能を探ることができます。


2. 診察室での認知機能検査は必要?

一般的には認知機能のレベルを調べる時は簡単な神経心理テストを行います。けれども病院に来た不安感から懐疑的、防御的になっている患者さんにはそのような検査をすることは得策ではありません。一度機嫌を損なうとその後の治療計画が進まなくなります。

そこで何気ない日常的な会話をしながらそのレベルを推測していくことになります。実際問題として、テストの点数より本人や家族が何にどの程度困っているかという事実が一番大切な事ですので、聞き取りを十分に行なえばかなりの確率でそのレベルを確定する事ができるのです。

興味あるニュースを尋ねて「最近は特に面白いニュースとかありません」「自分には関係ありません」、もともと野球好きの方に日本シリーズはどこが勝ちましたか?「野球やら興味ありませんもん」、孫の名前は?「孫はめったに来んけん忘れました」、趣味は?「人と会うのは好きじゃないから行ってません」などという返答が返ってくれば心理テストの必要性はあまりないとも言えます。


3. 薬を飲んでくれない時は?

「私はもの忘れなどしない。病院には行かない」と言い張って無理やり受診させられた方でも、数十分の診察を終えて画像診断の説明をして「ほんとにいい時期に受診してくれましたね、ご家族のお陰ですね」「少し同じ年代の人よりもの忘れが進んでいるようです」「でも今なら大丈夫ですよ」「物忘れ病にならないように今のうちからお薬を飲みましょうか」と話すと多くの場合素直に応じてくれます。

ただし、実際には服薬環境が整っていなければ処方はできません。「物忘れをする人に忘れないように薬を飲んでもらう」。そもそもこれは矛盾している話です。ですからご家族の協力や社会的なサポートシステムを利用してきちんと服薬してもらえるかを確認してから治療スタートさせます。


4. 薬が効いているかわからない時は?

これもご家族には切実な問題です。抗認知症薬は進行を遅らせる効果と言われていますが、服用してから一時的に症状が改善し元気になった印象を受ける人もがいるのも事実です。神経伝達物質を活性化させるので、会話が増えたり趣味を再開したり食欲が改善したりします。しかしそれも長くは続きません。認知症の症状はその後徐々に進行していきます。その時に薬が効かなくなった、薬を変えなくていいのかという疑問を御家族は持つことになります。

この様な一時的な改善傾向がなくなったからといってそこでお薬を変えてもあまり良い効果は得られません。お薬の変更は大変難しい問題ですが、数カ月から数年の経過の中で進行が早くなったり、対処に困るような周辺症状が急に悪化してきた時に考慮すべき戦略です。


5. 副作用が出た時は?

認知症のお薬が処方されたら吐き気や食欲低下や眠気、ふらつきなどに注意して見てあげてください。また急に元気になり過ぎて怒りっぽくなったりイライラ感が増えるようなら副作用の可能性がありますので書き留めておいてください。医師も次の診察の時にそれらの点について質問をするはずです。抗認知症薬は少量から開始してその後通常量に増やしますが、副作用が出た場合は薬を変えるか少量の用量に戻して続けて頂きます。

副作用で食欲が落ちて体重が減ったり、体力が落ちるようなことがあっては本末転倒ですので、良い全身状態が保たれていることがなにより大切です。

片頭痛にめまいが合併する「前庭性片頭痛」

頭痛外来には、片頭痛発作時に吐き気や光過敏などの通常の随伴症状だけでなく、激しいめまいを伴って受診する方がおられます。逆に耳鼻科のめまい外来にはめまい発作につらい頭痛を合併して来られる方がいます。このようなケースでは「前庭性片頭痛」という病気を考慮する必要があります。以前は「片頭痛関連性めまい」といっていたのですが2013年の国際頭痛分類で改変されました。

前庭性片頭痛」の国際診断基準をわかりやすくまとめますと次の様になります

  1. 過去に片頭痛の診断を確実に受けている事(片頭痛の診断基準を満たしている事が必要です)
  2. 5分~72時間の間で持続するつらいめまい発作が起こること
  3. 2のめまい発作の少なくとも半分には、下の様な片頭痛の特徴をもつ頭痛を合併すること。片側性、拍動性(ズッキンズッキンする)の強い頭痛、光や音に過敏になる、日常動作で悪化する、視野にキラキラするものが見える前兆(閃輝暗点)が起こる。(以上のうち2項目当てはまればよい)

めまいは回転性の場合もあれば、ふらつきのようなめまいもあります。めまい発作を時々繰り返して受診している方に、以前片頭痛と診断されたことがなかったかを尋ねると、問診だけでも診断がつくことがあります。もちろん、頭痛外来で専門医の診断を受けている事が前提です。耳鼻科の領域ではまだあまり認知度が高くありませんので、これから徐々に知られていく病気かと思われます。

頭痛外来では前庭性片頭痛はあくまで片頭痛の一種として考えていますので、片頭痛で適応を取っているカルシウム拮抗薬、抗てんかん薬、抗うつ薬などを用いて治療を行っています。2週間くらいの投与で効果が出てくるケースが多いようです。また、片頭痛を起こさないための生活上の管理が大切で、睡眠不足やストレスに注意し、人ごみやまぶしい光を避けるなど視覚刺激に対する工夫も大切です。

前庭性片頭痛の有効な治療法に関してはまだまだ症例が蓄積されているとはいえません。メニエール病との区別が難しい事もあってスタンダードな治療が確立していないのが現状です。現時点では頭痛外来で発見されるか耳鼻科で発見されるかで治療方針が変わることもありますので、これからさらに双方の症例に検討が加えられてスタンダードな治療方針が定まっていくことになるでしょう。

ぼーっとして反応がない「高齢者てんかん」

「てんかん」というと子供に多い病気というイメージがあります。けれども最近のてんかん年間発症率は高齢者と小児でほぼ同数になっています。年を取ると大脳の表面(大脳皮質)が徐々に老化して障害され、神経細胞が過剰に興奮しやすくなります。原因となる病気は脳血管障害、認知症、外傷などですが、原因がわからないものも三分の一くらいあります。


高齢発症のてんかんの特徴

1.側頭葉てんかん(意識消失発作)

これは、ひきつけを起こしたり、ばたっと倒れたりしないてんかんで、高齢者に多いタイプのてんかん発作です。「突然動作が停止する」、「呼びかけてもぼーっとして無反応で一点を凝視する」、「意味もなく口をもぐもぐさせたり、周りの物を手でまさぐるような動作をする(自動症)」などの症状が出現します。このような発作は1,2分で元に戻りますが、もうろう状態が数十分続き、その間の記憶が抜け落ちます。そのため自分でも発作に気づかず、まだらに記憶が抜けたり、つじつまの合わない会話をするため、認知症と間違えられてご家族と受診されることもあります。過去にも同じ様なことが何度かあったという場合は診断がつけやすくなります。これらの症状は抗てんかん剤の内服で症状を抑えることができます。

2.アルツハイマー型認知症とてんかん

アルツハイマー型認知症のてんかん発症率は正常高齢者の2倍から6倍です。若年発症のアルツハイマーや認知機能障害の程度が重症な人ほどてんかんの頻度が高い事もわかっています。これは神経の変性が強いためと考えられています。またてんかんを起こす認知症の方は、物忘れの進行が早い事もわかっていますので、認知症とてんかんの両方を持っている人には抗てんかん剤を積極的に使い、完全な発作予防を目指しています。

3.脳卒中とてんかん

脳卒中(脳血管障害)のあとにてんかん発作を起こすことがあります。脳卒中後1週間以内におこすものを「早期発作」と呼びますが、重要なのはその後に起こる「遅発発作」で、これは長期間繰り返す傾向があります。脳卒中後10年間に発作が一度でも起これば「遅発発作」として内服薬による治療を開始するよう国際てんかん連盟は推奨しています。

四肢や全身のけいれんがあれば診断は容易ですが、先に述べましたように意識がもうろうとする発作、まだらな記憶障害や自動症も多く、十分な問診をしなければ診断が難しい事もあります。てんかんを診断する最も重要なツールは問診です。てんかんは認知症外来を行う上でも忘れてはならない病態です。

治療の面でも最近は次々と新しい抗てんかん剤が開発されていますので、一種類のお薬でコントロールがうまくいかない方は、薬をさらに加えたり、変更する事で大変良い結果が得られるようになっています。てんかん治療も昔と比べると格段に進歩しています。

不眠の脳科学(3) 交代勤務者の睡眠術

日本の労働者の5分の1は交代勤務者です。工場や医療、交通関係や飲食業などで深夜早朝まで頑張って働いている人たちがたくさんいます。交代勤務者の問題点は不規則でバランスの悪い食事と運動不足、そして睡眠です。

交代勤務を連続して行なうと生体リズムが狂ってしまいますので、まず連続させない事が大切です。単発の徹夜勤務のケースでは午前中に軽く仮眠をとり、夜にしっかり寝れば特に問題はありません。その際、生体リズムを崩して不眠の原因にならないように、朝から夕方まで一気に長時間寝てしまわない事が大切なポイントです。

問題となるのは連続する交代勤務や深夜勤務のケースです。朝帰宅しても世の中が動き出す慌ただしい時間帯ですのでなかなか寝つけません。もともと朝の光は体内時計をリセットさせる効果がありますので、それを浴びると益々眠れなくなります。ですから早朝に帰宅する仕事を続ける場合はサングラスをかけて帰宅するのが有効です。部屋も薄暗くしてパソコンやスマホは見ないようにします。それでも午前中なかなか寝つけない人はお昼ごろから4、5時間寝るようにします。体内リズムの影響で人間が一番眠くなる時間帯を利用するのです。

アルコールを飲んで寝るという人もいますがこれは昼夜問わず良くない方法です。アルコールは3,4時間後にアルデヒドという物質に変わります。これは脳を覚醒させる物質です。寝つきが良くなるように感じますが、体内で覚醒物質に変わるので早く目が覚めます。「睡眠不足なのに早く目覚めてしまう」のですっきりしない一日になります。依存性もありますのでどんどん飲酒量が増えていくという問題もあります。そういう場合は医師の判断で正しく睡眠薬を使う方がいいのです。

さらに、アルコールと睡眠薬を一緒に飲む人もいますがこれが一番危険です。夜間のトイレや飲水などの行為を完全に忘れてしまったり、ふらついて転倒することも増えます。冷蔵庫の中のものを手当たり次第食べてしまい、それを覚えていないという健忘症の事例もあります。アルコールを飲んでから睡眠薬を飲む場合は最低でも3時間は空けることが必要です。

最後にトイレの話。年を取るとトイレに起きることが多くなります。これは年齢と共に睡眠が浅くなってくるという睡眠の深さと関係があります。眠りが浅くなると膀胱が小さくなるのでトイレに行きやすくなるのです。若い頃は眠りが深いので膀胱が小さくならないのです。高齢者の深い眠りは就寝から3時間後に現われる事がわかっていますので、最初の3時間に尿意で目覚めなければ睡眠障害にはなりにくいのです。睡眠薬による治療が必要になるかどうかは最初のトイレタイムが就寝後何時間で起こるのかがポイントです。