発達障害の脳科学3(ASDのコミュニケーション障害)

発達障害の脳科学3(ASDのコミュニケーション障害)

ASDの人が直面するコミュニケーションの壁

ASDの人にとって最も問題なのは「相手の表情を読み取ることが難しく、コミュニケーションが苦手」ということです。興味や感情を共有したり、状況に合わせて行動を調節することができません。普通あまり行かない場所を訪れるなど環境のわずかな変化でパニックになったり、同じ行動を繰り返すこともあります。通常の発達では「他人と仲良くしたい」「他人に認められたい」「物より人に興味がわく」などの感情が自然に湧いてくるものですが、ASDではこの「社会的動機付け」が弱いため、小さいころから友達と目を合わせない 指差しをしない、名前を呼ばれても振り向かないなどの特性が目立ってくるのです。

ASDと脳の神経回路の関係

このような症状は脳のどのあたりに不調があると考えられているのでしょうか。脳科学的な研究では、ASDの「表情を介したコミュニケーションの取りづらさ」は、脳の「下前頭回」と「上側頭回」を繋ぐ神経回路の不具合である事が明らかになりました。(京都大学 佐藤弥(わたる)研究チーム:BMC Neurosci.2012 Aug13) 前頭葉の下面にある「下前頭回」という部位は他者と自分の動きを関連づける「ミラーニューロン」があると言われている部位です。人間が相手の表情と自分の表情を結び付けて気持ちのやりとりをする上で、とても重要な部位と言えます。また「上側頭回」はその表情を視覚的に分析する場所で、視覚中枢の近くに存在しています。ASDの人ではこの二つの部位の神経回路の繋がりが不十分なため、表情の読み取りがうまくいかず、コミュニケーション障害が起こっていると考えられているのです。

次回からはADHDの脳科学を考察していきます。

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