発達障害の脳科学4(ADHDのメカニズム)

発達障害の脳科学4(ADHDのメカニズム)

ADHDと報酬系ネットワーク

人間の脳内には「報酬系」と呼ばれる回路が備わっています。テストでいい点数をとったり人から褒められたりすると神経細胞から「ドーパミン」という神経伝達物質が放出され快楽を感じます。その経験をするとまたそれを得ようとする。これが報酬系です。もし、ある試験に合格したいと思ったら、通常はゲームなど目先の快楽(即時報酬)を一旦我慢して、合格という報酬(遅延報酬)を選ぼうと考えるものですが、ADHDの人は衝動的に目先の快楽を選び、テレビゲームに熱中してしまう傾向があります。この選択には黒質線条体、前頭葉など脳の報酬系が関わっているのですが、ADHDではこのネットワークが広く障害をきたしているようなのです。
 もともと、ADHDの人はドーパミンの量が少なく、報酬系の活動が低いと考えられています。ところがADHDの人の分泌状態は非常に不安定で、突然ドーパミン神経の活動が盛んになり、一気に放出量が増えることがあることもわかってきました。ADHDの人は気分屋でやる気になるまで時間がかかりますが、だんだんとスイッチがはいると何もわからないくらい集中します。アーティスト気質と呼ばれるというのは、このドーパミン作用の不安定さがプラスに働いた結果なのです。

ADHDと時間知覚異常

ADHDでは学童期には「大声で話し、TPOを考えずおしゃべりをする」「授業中、席を離れて大きな声で話しかける」という特徴があり、成人後も「相手の話を最後まで聞かず割り込む」「相手の話を冷静に聞けず、キレやすい」という特性のため、人間関係がうまく構築できず、社会生活が難しくなります。この特性には「時間知覚の不具合」が関わっていると考えられています。通常の発達では、「ある刺激の時間の長短を適切に感じる能力」が備わっています。けれどもADHDでは時間経過が主観的な基準になっているため、他人との時間にずれが生じて、我慢ができず結果的に周囲に迷惑をかけたり、場所や時間や空気を読めないといった状況になっているのです。
 最近の研究では体のバランスを取る部位である小脳に、注意、言語、感情の調節機能があることがわかってきていて、ADHDには小脳のトレーニングが有用と考えられています。実際にADHDの人の小脳は容積が小さい、小脳と大脳の結合が弱いなどが知られていて、これが「いつも体をそわそわ動かしている」「バランスを取るのが苦手」「体幹の弱さ」の原因とされています。バランスボールを使った訓練やグラグラする板に立って目を閉じたままで計算をするなどの小脳刺激プログラムによってADHDの症状に改善がみられるという成果が表れているのです。

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