アルツハイマー型認知症のとりつくろい現象

アルツハイマー型認知症のとりつくろい現象

認知症にはアルツハイマー型認知症レビー小体型認知症脳血管性認知症前頭側頭型認知症などがありますが、日本では6割程度がアルツハイマー型認知症と言われています。臨床症状にはそれぞれ特徴がありますが、アルツハイマー型認知症を診断するうえで最も特徴的な症状が「とりつくろい現象」といわれるものです。

アルツハイマー型認知症は短期記憶の中枢「海馬」の萎縮が特徴的です。そのため記憶が数分しか維持できません。何度も同じ話をし、同じことを訊きます。家族が対応にほとほと疲れてくるのはそのためです。この病気の初期では「海馬」の機能は低下しているのに、思考や判断を司る「前頭葉」は十分働いています。そのため答えられない質問に対して実にうまい手段で切り抜けようとします。これが「とりつくろい現象」です。もはやこれは妙技ともいえるでしょう。固有名詞が出ないとき、矛盾した返答をしたとき、返答できないと思われたくないとき、アルツハイマーの患者さんはどのようにとりつくろうのか、その例を示します。

最近はどんなニュースに興味があるんですか?

野球と政治は新聞を全部読んでます

おー、そうですか、野球はどこを応援しているんですか?

・・・・・・地元のチームですたい

優勝したんですよね?

今日は新聞見とらんけんわからんです

え、そうなんですか、今の監督は誰ですか?

監督は関係ないでしょうが、やっとるのは選手ですけん

あ、そうですね、じゃあ誰を応援してるんですか?

選手個人個人やなくて、チームそのものを応援しとるとです

あ、そうなんですね、2位のチームはわかりますか?

優勝できんチームやら意味ないでしょうもん

そうですね(勝負の世界は厳しいってことか)
最近総理大臣が変わりましたけど誰に変わったかわかりますか?

誰になっても政治は何も変わらんでしょうもん

なるほどね、前の総理大臣は誰でしたかね?

終わった人のことは気にせんようにしてます

そうなんですね、でも政治には興味があるんですよね

昔のことですたい。

ああ、昔のことですか、じゃあ昔の総理大臣で誰か覚えてる人いませんか?

今の政治は昔とは全然違うけん、そんなもん聞いても参考にはならんですよ

そうですね(叱られた)
最近はみんなこうやってマスクをしてますけど、どうしてマスクしてるかわかりますか?

風邪でしょうもん

風邪なんですか、何か特別な病気じゃないんですかね?

どんな病気でも風邪は風邪でしょうもん

あ、そうなんですね、でもこの病気にかかるのは怖くないですか?

かかったらかかった時のことでしょうもん

(確かに、そんな気にもなってきた)
最近はスーパーに買い物に行ってくれてるそうですね。

そりゃ毎日ご飯作らんといかんけん、行きますばい

え?食事は奥さんが作ってますよね

失敗せんように横で見てやっとるとですよ。

そうだったんですか、奥さんが指定したメーカーとは違う品物を買ってくるらしいですね

どこのメーカーも大して変わらんでしょうもん

そうですね、でも大量に買ってきて困るって奥さんが言ってましたよ

どうせいつかは使うもんでしょうもん

それはそうですけど腐ったりしませんか?

冷蔵庫があるでしょうもん

(負けた)

とまあ、このように見事なとりつくろいは永遠に続きます。血流検査など高価な認知症の検査をするまでもなく、このやりとりだけでかなりの確率で診断できるのがアルツハイマー型認知症の特徴ともいえます。

関連記事

  1. レビー小体型認知症(DLB)の話

    レビー小体型認知症(DLB)の話

  2. 認知症患者の「不安」について考える

    認知症患者の「不安」について考える

  3. においと方向感覚と、そして認知症

    においと方向感覚と、そして認知症

  4. 時々お母さんがバカになる?「一過性てんかん性健忘(TEA)」

    時々お母さんがバカになる?「一過性てんかん性健忘(TEA)」…

  5. どこからが認知症?

    どこからが認知症?

  6. 抗認知症薬の副作用と使い分け

    抗認知症薬の副作用と使い分け

ピックアップ記事

  1. 片頭痛にめまいが合併する「前庭性片頭痛」
  2. 子供のスポーツと脳震盪(のうしんとう)
新着記事 おすすめ記事
  1. 新しい片頭痛治療薬「レイボー」の特徴
  2. 怒りっぽさが目立つ「嗜銀(しぎん)顆粒性認知症」
  3. アメリカの肥満治療事情
  4. フレイルの定義
  5. 若井克子著「東大教授、若年性アルツハイマーになる」を読む
  1. 帯状疱疹と顔面神経麻痺:(ラムゼイハント症候群)
  2. 子供のスポーツと脳震盪(のうしんとう)
  3. 新型コロナウイルス感染の正しい怖がり方
  4. 片頭痛にめまいが合併する「前庭性片頭痛」
  5. 頭部打撲による「外傷性髄液漏」とは
PAGE TOP