超急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法の現状

超急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法の現状

日本の脳梗塞急性期治療は血栓溶解剤t-PAの静注療法が認可された2005年以降劇的に進化を遂げています。「脳梗塞で半身不随になっても直ちに静脈注射すれば血栓が溶けて麻痺が良くなってしまう薬」というと夢のような治療にも思われがちですが、実際にはまだ多くの市民がその恩恵に与ることができていません。この治療の対象になる脳梗塞のタイムリミットは「発症後4時間半まで」に延長されましたので以前よりは徐々に治療実績は増加していますが、それでもこの治療を受けている人は脳梗塞全体の5%くらいと考えられています。4時間半以内に治療を開始するためには、検査時間を考慮すると2時間以内で専門病院を受診するのが理想です。ハードルは思いのほか高いようです。

1.すぐに脳卒中を疑い、救急車を呼べるか

市民のみなさんの脳卒中への関心は大変高いのですが、それでも明らかに受診が遅すぎるケースをたくさん経験します。福岡県、大阪府、神奈川県はアメリカで広く展開されているACT FAST(Face,Arms,Speech,and Time)キャンペーンを行なっています。

自分やご家族が何かおかしいと感じたら、顔面の麻痺、腕の麻痺、言語障害、発症時刻の確認を下の表のように行なってください。

【正常】左右対称である
【異常】左右非対称である

【正常】両側とも同じように動かすことができる。
【異常】片方の腕が動揺もしくは手が回内する。
【異常】片方の腕が落ちる。もしくは上がらない。

言葉

【正常】理解可能な発言である。
【異常】不明瞭もしくは理解不能な発言である。
【異常】発言なし

  • :ニッコリ笑うと口や顔の片方がゆがむ
  • :手のひらを上に両手を前方にあげ、5つ数える間に、片方の腕が下がる
  • 言葉:「太郎が花子にリンゴをあげた」とうまく言えない
  • 時間:これら3つの兆候のどれかを示しているなら、時間の確認を。

あなたやあなたの周りで、もしこんなことが起こったら、すぐに救急車を呼んで下さい。救急隊が適切な病院へ連絡して搬送します。

2.救急隊による救護の大切さ

救急隊はより高度な知識と経験で脳卒中の可能性を疑う訓練を受けています。アメリカのシンシナチ州、ロサンゼルス市等で考案された重症度評価表や倉敷病院脳卒中スケールを用いて救急隊はすみやかに重症度を判別して基幹病院へ搬送しています。この初期対応の正確さと敏速さが脳梗塞治療の成功のカギを握っています。おかしいと感じたら迷わず直ちに救急車を要請してください。

3.専門施設への受け入れ体制

地域の救急隊はtPA治療の可能な施設を把握していますが、その施設がまだまだ少ないためヘリコプターによる遠隔医療支援システムが進みつつあります。福岡県では平成14年(2002年)全国5番目に久留米大学高度救急救命センターにドクターヘリとして配備され福岡県、佐賀県、大分県をカバーして大きな役割を担っています。ちなみに欧州ではMobile stroke Unit(移動脳卒中ユニット)というCT、脳卒中専門医、t-PA静注療法を搭載した巨大な救急搬送車が成果を挙げています。また国土が広大な米国では画像転送とビデオ会議を組み合わせて情報を脳卒中専門病院に送り、専門医の指示により地域病院でtPA治療を行うというシステムが運用されています。

4.日本の脳梗塞急性期治療の現状

脳梗塞急性期治療における日本の救急システムは山間部などでまだまだ不十分ですが多くの取り組みによって国際的には脳梗塞死亡率は世界で最も低いレベルとなっています。脳梗塞発症後いかにすみやかに専門病医院へ搬送しいかに早く治療を開始する事ができるか、そのシステムづくりが進めばこの病気に対する医療の質はさらに向上してゆくと思われます。

日本の脳梗塞急性期治療の現状

参考文献
tPA静注療法に必要な院内院外診療体制 (脳神経外科ジャーナル)
国際医療統計OECDヘルス統計(日本医事新報、No4736)

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